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【セブン編】【第2話】🌙 暗い冬の朝、あの音がすべてを変えた

セブン編 - The Seven Chapter

再会から一年後の冬。
突然届いた友からのメール。

「お前の家の近くを通って山に行く。一緒に乗らないか。」

そんな誘い、断る理由なんてない。
二つ返事で決まっていた。

まだ夜が明けきらない時間、
家の近くのホームセンターの駐車場で待つ。
冷たい空気の中、胸だけが妙に熱い。

そして——来た。

遠くから、聞いたことのない排気音。
暗闇を切り裂くヘッドライト。
その光と音が近づくにつれ、
あなたの胸の奥にしまっていた“憧れ”が震え始めた。

見たことのない光景。
でも、ずっと見たかった光景。

その瞬間、
「やっと、乗るときが来た」と思った。

🛠️ この一年、ずっと準備していた

通勤の電車の中で、
何度も何度も車庫のスケッチを描いた。

  • 妄想の図面
  • 現実的な寸法
  • 夢と実用のバランス
  • どんな棚を作るか
  • どんな照明にするか
  • どんなふうにセブンを迎えるか

そのスケッチは、ただの落書きじゃない。
“夢を現実に引き寄せるための行為”だった。

誰にも見せていないけれど、
もうずっと前から動き始めていた。

🚗 これは、通過儀礼だった

ミーハーなんかじゃない。
むしろ逆で、ずっと胸の奥にしまっていた“若い頃の自分”と、
今の自分がようやく握手する瞬間だった。

  • 片足を差し込む
  • フレームに手を添える
  • ゆっくりと腰を滑り込ませる
  • もう片方の足を収める

この一連の動作は、
「本当にこの世界に入っていいのか」
と自分に問いかけながら、
そして
「ようやくここまで来た」

と静かに確かめるような時間だった。

セブンは、乗り込むだけで“覚悟”を求めてくる車。
だからこそ、自分にとってはそれが儀式になった。

🚗 “完全防備”という名の準備運動

ダウンジャケットで膨れた身体を、あのタイトなシートに馴染ませる。
ビニールレザーの簡素なドアをホックで留める。

そしてシートベルトを締め、
ゴーグルをかけ、
ネックウォーマーを巻き、
ニット帽を深くかぶる。

この一連の動作は、まるで
「これから非日常へ入る準備を整える」
そんな儀式のように感じられる。

その瞬間、
日常の自分をひとつずつ脱ぎ捨てていく。

🌙 そして、闇の中へ走り出す

エンジンの振動が身体に伝わり、
冷たい空気が頬を刺し、
ゴーグルの向こうに街灯が流れていく。

普通の車ならただの移動。
でもセブンは違う。

走り出した瞬間から、すべての感覚が“生き返る”。

長い年月を経てようやく辿り着いた場所。
その最初の一歩が、
“闇の中を走り始める”

🚗 バイクと似ている。でも、決定的に違う世界。

加速、風、振動。
確かにバイクと共通している部分はある。

でも、目線が違う。

  • 地面との距離が異常に近い
  • ケツの下10センチにアスファルト
  • 目の前の世界が“地を這うように”流れていく

この低い視点は、バイクでも味わえない。
セブンは、ただ速いんじゃなくて、世界の見え方そのものを変えてくる。

🔊 音が身体に入ってくる

街中だから信号がある。
30キロから60キロの加速を何度も繰り返す。

普通の車ならただの“加減速”。
でもセブンは違う。

  • 低速の排気音が建物に反射して返ってくる
  • 加速のたびに身体がシートに押し付けられる
  • 風が顔を叩く
  • ゴーグル越しに街灯が流れる

久しぶりに“生き物としての感覚”を取り戻していた。

👥 そして、横にいる“あいつ”の存在

横で運転している友。
学生時代、一緒にバイクで走った“無二の友”。

風と排気音で声は聞こえにくい。
でも、聞こえなくても分かる。

「どう?」
「!」

言葉じゃない。
声じゃない。
でも、伝わる。

あの瞬間、
俺と友は、20代の頃の自分たちに一瞬だけ戻っていた。

🌄 夜明け前、山の入り口で始まる“別世界”


夜明けの薄暗さの中、コンビニの駐車場で身体と車を少し休める。
ビニールレザーのドアを外すと、空気が変わる。
信号をひとつ越えたら、もう日常は終わり。
そこから先は、ただ“道”だけがある世界。

🚗💨 エンジン、ギア、風、そして身体が蘇る
2速、3速とパワーバンドを感じながらシフトアップ。
と思ったら、すぐに2速へシフトダウンしてブレーキング。
ハンドルを切ってコーナーへ飛び込む。
アクセルオン。
次のコーナーを探しながら3速へ。
4速を使うのを堪えて、3速のまま緩いカーブを加速しながら駆け上がる。
直線で一瞬だけ加速。
すぐに2速へ落として減速。
回転が落ちないようにアクセルを合わせる。
そしてまた次のコーナーへ。

アスファルト、空、木の枝。
アクセルとシンクロする排気音。
友のシフトチェンジ、アクセルワーク、ブレーキング。

すべてがひとつのリズムになる。

🏍️ 身体が覚えていた“あの感覚”

外側の足に力が入り、身体が内側に倒れる。
視線は次のコーナーと、もしかしたら現れるかもしれない対向車。

この身体の動きは、まさにバイクと同じ。
身体は、忘れていたはずの感覚を一瞬で思い出した。

🌫️ 生活の外側にある時間

この時間はバイクと同じ。
今まで忘れていたもの。
今までの生活の中に存在しなかったもの。
そう、生活から離れるためにここにいる。

“走り”を取り戻したんじゃない。
生活の外側にある、自分だけの時間を取り戻したんだ。

仕事でも家でもない。
役割でも責任でもない。
ただ、自身の感覚だけが存在する時間。

その時間を思い出した瞬間、
セブンは単なる憧れの車ではなく、
人生に必要なものになったんだと思う。


🌄 走り終えたあとの、あの静かな時間

山を抜けてスローダウンしながら、木漏れ日や空を眺めて下っていく。
あの時間は、走りの興奮とはまったく違う種類の“満たされ方”がある。

  • 緊張がほどけていく身体
  • 朝の光が少しずつ強くなる感覚
  • 風が優しくなる瞬間

まるで、走りの余韻を身体がゆっくり噛みしめているようだ。

🚗 日常へ戻るための“帰路”

山のリズムから、街のリズムへ。
ほかの車に混ざって走ると、さっきまでの世界が夢のように感じる。

でも、その夢は確かに身体に残っている。
アクセルの感触、排気音の余韻、友の横顔、そして自分の心の動き。

🏡 家の駐車場で、ひとつの答えが生まれた

家の駐車場に停めてもらった瞬間、
“この光景を忘れたくない”と思った。

ポケットからスマホを取り出し、写真に収めた。

いや、もっと正確に言えば——
この瞬間を待っていた。

写真に納めるという行為は、ただの記録じゃない。
長い間くすぶっていた想いが、

この瞬間に形になった証だ。

「いつかは自分も」

その言葉は、憧れではなく、
決意の手前にある静かな確信だと思う。

🌱 ここから物語が動き出す

この日の体験は、自分にとって“背中を押された日”ではなく、
心の奥で何かが静かに決まった日なんだと思う。

  • 車庫のスケッチを描き続けた一年
  • 友との再会
  • 夜明け前の走り
  • 家の前で撮った一枚の写真

すべてが一本の線でつながっていく。

🌅 非日常から日常へ戻った瞬間に生まれた“違和感”

山での走りは、身体の奥に眠っていた感覚を呼び覚ました。
風、音、視線、リズム、友の存在。
あの時間は“生き返る”ような体験だった。

でも翌朝、現実に戻る。

  • 古い家
  • 1台分の駐車スペース
  • 屋根も扉もない
  • 生活の匂いが染みついた日常

その光景を見たとき、思った。

「このままじゃダメだ」

いや、もっと正確に言えば——
「このままじゃ、あの感覚を迎え入れられない」

🏡 狭小戸建という“制約”が、逆に自分を動かした

普通なら諦める理由になる。

  • スペースがない
  • 古い家
  • 車庫なんて無理
  • 夢は夢のままにしておくべき

でも違った。

あの山の時間を思い出したとき、
“制約”はむしろ、自分を動かす理由になった。

「この場所に、あの世界を迎え入れるために、
自分で作るしかない」

そう思った瞬間、
古ぼけた家も、狭い駐車場も、
自分にとって“素材”に変わった。

次回予告:【セブン編】【第3話】「房総で決まった日」